 | 級別制度の摘廃
「ついに」というか「ようやく」というべきなのか……戦前の昭和十八年に導入された日本酒の「特級」「一級」「二級」の級別制度が、平成四年四月一日をもって完全撤廃されました。平成元年の酒税法改正により、特級表示は同年四月一日からすでに廃止されていました。
そして業界や市場の混乱を避けるため、暫定移行期問の三年間を経て、平成四年四月一日、「一級」「二級」の表示も廃止となり、半世紀にもおよぶ日本酒級別制度に幕が閉じられました。
となると、何を基準に酒を選ぶか関心の高まるところですが、もともと「特級」「一級」「二級」の区別は酒税の違いであって、品質にはほとんどといってよいほど関係はなかったのです。
しかし、買うときにひとつの目安となっていたことは否めません。たとえば、贈答用として地方銘柄の素晴らしい大吟懐を選んで贈っても、贈られた側に級別についての知識がなかったときには「何だ二級じゃないか」ということになり、せっかくの贈り主の心も通じない結果となりかねませんでした。しかし、こうした級別にこだわる人は、正直いって酒のことがあまりよく分かっていません。
このように、日本酒の級別制度は私たちの生活の中にどっしりと根をおろした存在であったため、三年の移行期間を得たとはいえ、「級別制度の完全撤廃」となれば、「これからは何を基準に酒を選ぶの?」ということになりました。日本酒が米を原料としているとの考えに基づいた本物の酒をご希望ならば、これからは「“特定名称の酒”の中から選んでほしい」ということになります。“特定名称の酒”は、特級酒以上の高級酒であるといえます。その理由は、材料費が従来の酒よりはるかに高く、製法も難しいからで、またそれだけの価値はあるお酒です。
私たちは日本酒の歴史の中で、いま最も美味しいお酒を飲んでいることは間違いないでしょう。
しかし、大手メーカーによって級別廃止後に始まった相次ぐ意味難解な専門用語や新商品の登場に加えてテレビや新聞の派手な広告で、頭の中がゴチヤゴチャになってしまうことでしょう。もっとも、酒を生業とする酒販店や飲食店ですら、まだ100%理解できていないのが現状ですから、やむをえないことだと思います。
そこで、「それでは今までの級別制度はいったい何だったのか」ということから順を追って説明してみましょう。
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 | 撤廃された日本酒の級別とは
昔、日本酒に「特級」「一級」「二級」の区別がりました。当時、日本酒を選ぶとき、ほとんどの方がこの級別を参考にして、「贈り物だから特級でなくては」とか「二級より一級のほうがおいしいでしょう」とおっしゃていました。
しかし、この「特級」「一級」「二級」の級別と日本酒の品質とは、まったくとはいわないまでも、ほとんど関係ありませんでした。
仕込みを終えて出来上がってきた日本酒は、実はすべて二級扱いでした。つまり、「特級」「一級」「二級」の級別をつけていた酒は、別に材料がちがうわけでも、造りかたがちがうわけでもなかったということなのです。
米と米麹だけでつくる本物の日本酒も、最近特に人気が出てきた吟醸酒も、出来た時はすべて二級酒でした。では一級とは何だったか、特級とは何だったかということになるのですが、蔵元が自分のところで出来た酒を“特級で売りたい”“一級で売りたい”と希望をもつときに、国税局の酒類審議会というところの級別審査で、「特級」「一級」の認定を受け、二級に比べかなり高い税金を納めればそれでよかったのです。審査は専門家がきき酒をして、特級酒、一級酒にふさわしい品位、風格、香味をそなえているかどうかをみました。こう申し上げると、やはり特級酒や一級酒は二級酒よりも優れていると考えがちですが、レベルアップされた現在の日本酒においては不合格となるような低品質の酒はほとんどないといっても過言ではありません。
審査する国側にとっても、せっかく「私共は酒を売るのに高い税金を払いたい」と申し出る蔵元に、あまりきびしくはなかったようです。それは、国の財政に大きなウェイトをしめる酒税の増加につながることだからです。
大手酒造メーカーが地方の造り酒屋からオケ買い(自分のブランドで生産した酒の全部を売り切れない地方の中小メーカーから、タンクのままで買うこと)をした酒をいろいろとブレソドして、莫大な広告宣伝費をかけて売り出すのには、「特級」「一級」のほうが何となくイメージがよく、日本人はとかく“級”のつくランク付けが好きですから売りやすかったのでしょう。
しかも、二級酒に比べて非常に高い税金は、小売価格に含ませてしまえば消費者が負担してくれることになりましたし、国家財政にも協力することにもなりました。原材料の米といいアルコールといい、とかく国や税務所とは縁のある大手酒造メーカーとしては、よろずよしといえます。
また、このように生まれたときはすべて二級扱いの酒を、「特級」「一級」 の審査に出す出さない、高い税金分を含めて、特級、一級酒で高く売る、売らないはあくまで酒造メーカーの意志や、販売政策によるまったく自由なことだったのです。ということは、中身の酒は同じでも、検定をうけた酒は一級であり、受けない酒は二級となっているということもあったわけです。くどいようですが、特級、一級、二級で区分された日本酒は級別イコール品質の良し悪しではなかったということを、是非知って下さい。地方の二級酒の中に、有名ブランドの特級、一級酒をしのぐ美酒、名酒が存在した理由はこんなところにありました。
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 | 意味不明大手メーカーの奇抜なネーミング競争
平成四年四月一日の級別制度完全撤廃を期に、最大手メーカIの『月桂冠』が、旧特級を「特撰」、旧一級を「上撰」、旧二級を「佳撰」と命名し、灘、伏見の大手メーカーの多くがこれに「右へならえ」の表示を始めました。また『大関』はこれに併記して「特撰金冠」「金冠」「銀冠」などと、各メーカーがいろいろな表示をつけて広告宣伝を始めました。
しかしこの「上撰」「佳撰」というコトバや「金」だの「銀」だのというのはあくまで各メーカーが己の基準で、ほとんどは普通酒に勝手につけているコトバであることを忘れてはいけません。
さらにネーミング競争はエスカレートして、大手メーカーは意味難解な専門用語や形容詞を次々と発案し、新聞・雑誌・テレビを通じて宣伝を始めました。
よくぞ付けたり、と申し上げたい、とても美味しそうで、すごい酒質を連想させるこれらのネーミングの酒のほとんどがアルコールをたっぷり使って増量したアル添酒、およびアル添酒に三増酒をブレンドした″一見清酒風アルコール飲料″と呼ぶべき酒であることを知ってください。
大手ブランドでは、「お客様相談室」ぐらいはあるでしょうから、ラベルに表記のある連絡先に『「上撰」だの「佳撰」などの意味を教えてください。』と電話してみましょう。このように消費者が行動に起こさない限り、メーカー主導で消費者をごまかす為の意味不明なネーミング競争は無くならないでしょう。 |